*ぷみささんちの白紙帖

ぼくのこころのふりーだむ。

*ぴちゅ:めゝんと∴ぱらたいぽ

https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/10/29/161139

**〔exspiravit ∃ureka papilionem

視界傍(そば)の果(はて)、儚(かす)かな白光をゾート・ロープに散らばして一本玉錫色のフォークがその糸爪弾く残響の先掌から落下した。

 

「お父君殿が…。」



葱が、上げた―あの神妙に低く微か母像に似た―か細ぃ徒然(-いたづら-)に澄んだ声だった。
「ぁ、喋(しゃ)べった。
じゃぁこれもぅおしまぃだ?もらってぃ―い」
緩く床に叩き付けられた花囲ぅ白皿の上でやゎらかく形の崩れた、剰(あ)まりにも暢気すぎる声が手許から遠慮なく小春の瀬々流(せせらぎ)が漱(すゝ)ぐよぅに、半ば食べさしのシブースト・ケーキの淵を引ぃていった。


一転、浪漫(ロ‐マン)派の塑像寄(よろ)しく青銅色を刻む眉間と顳を抑ぇ深く穿(うな)だれた―それは如何にもゆるりと吐息を吐き外連に巻き髪たゆたゎす巨男、橅の舞台上のよぅに姏寧(かんねぃ)な仕種に惑ぃ、己のしてしまったことの身を刺せる重大さを読む事の時差を生んだ。
「ぁ―…その、なんだ」

 

「ネギには『一都合があって、御父上様は暫らくここには来られなぃ』といってあったんだよ。」

 

過飽和熔水のよぅに穏やかに、汗ばむほど照りぁがり、満たされる現実(せかい)の日ごと沈んでゆく、ちっぽけなお膳上の役者達の終局的な運命を察っすることに剰まりある、とりかぇしの付かない微寂(しじま)。

 

 

 

「あ――――――――――!」
―あの神妙に低く微か聖女‐マドンナ‐の奏(しら)べにも似た―微細そき鋭さこそなぃ叫びの声が夏の草葉の裂けるよぅに心を弾(ひ)ぃた。
Teinopalpus aureus x Bhutanitis ludlowi ssp.nova var.lux-album M.shiraga ex al., 1999, nom. nud.が居なぃ!」
っぇ、ぃ…はぃ? つぃに宇宙言語かなんかしらでも登場?
 何、何んだって。

 こぅいうときにまた一つ救援求め隣方を観ると蓮根は手許の鋒先(フォーク)を咥ぇしと満足げに甘苦くシブーストのぉさがりを預かってぃた、思考判断より先にすぐさま目線を白ぃ貌に戻す。

 

「Teinopalpus aureus x Bhutanitis ludlowi ssp.nova var.lux-album M.shiraga ex al., 1999, nom. nud.がいなぃぞ!」
「ぁあ、あのなんか雑種だか変種とかいぅ物珍しぃ蝶々か。」
よく出来た屋敷守はしれりと貌を平常に戻って、その主の丁寧な御言葉に傾聴してぃた。
「ぶな!Teinopalpus aureus x Bhutanitis ludlowi ssp.nova var.lux-album M.shiraga ex al., 1999, nom. nud.がいなぃ!
うあぁぁ!」
その旧式の色硝子の窓の障壁すら破らなぃ、ハープ・シコードの如き金切り声の木枯らしにも怖俯(おじ)けるさまがより見るもののもの悲しさを増幅させる。
「すみません、もぅこれなんといぅか…まじで本当に何ですか。」
いまにも泣きそぅな自分が言ぅべきことはいっぱぃいっぱぃなんだが、色々な自分の懸命の観察と解釈にも何もかもが剰りある意味で目の前で貫禄を払ぅ屋敷守に辞む無く質疑といぅ名の救難を求めた。

 

「ぁ…あ どこだったかな。あった、これだよ。」
あのかつての慇懃な茶卓へケーキ皿を捌く仕種のよぅに、長身のその従者がいと軽ろげに蒐蔵棚(しゅうしゅう‐だな)を撫で、優(す)ぐさまその手の平に持ち出してきたのは、

 

そのどこまでも真っ純ぐに燥(かわき)き伸びた翅に載せた絢乱な紋様と映(さ)める輝がやはきいままでも見たこともなぃ、

千遇に見馴じみのなぃ燦然を綴(つゝ)む綾羅錦繍の鈿様(もよぅ)の幾何学は、知らなぃ異国の文明の抽象画さぇ思ぃうかべさせる

熾烈に美しく仄明るぃ鮮やかな緑色に光る大ぉきな翼を持った二対の蝶の昆虫標本だ。

 「これが―Teinopalpus aureus x Bhutanitis ludlowi ssp.nova var.lux-album M.shiraga ex al., 1999, nom. nud.…、だ。ほら、ここに名札があるだろ。」
その親切に橅が大きな指で擬(な)ぞる呪文をさすがに自身が読める筈はなぃのだが、その真摯な挙動と貫禄に免じて何んとなくものの真実を察し捉(と)り、その圧巻の美しさと仰々しさに納得と嘆息とをしながら、
「なるほど…。」
それは若(わ)かった。
…それで
「それで…ここに、あるじゃなぃですか。」

 

そぅなのだ。瀟洒に埃をほのか纏った白木の平箱の硝子板の向こぅには、立派な蝶々のその身躯(からだ)が、中空に舞ぃ浮かぶ時を魔法で永遠に止められたよぅにちゃんとピン留めを胴とその六肢の麗(ふもと)始め微憐で華奢な各々に鄭重(ていちょぅ)に打たれ白地に御鏡のよぅ鎮座されている。
「あぁ、そぅなんだ、この蝶々はそのきれぃなにんとかなんとかってやつでな。此処に一緒に収蔵された博士の博物品の標本の内で、こぃつもとくにネギのお気に入りなんだ。」

 

「これな、研究先の渡航地で博士のグループ達が発見なされたやつでな。ネギ、
―まだここではじめの頃、そぅ、昔はよくこの蝶々ばっかり眺めてたよな。な、そぅだろぅ?」
懇親な紳士の微笑包む巻髪ごとはりたぉされた空気が微風の嘶きを立て白く翻く大ぉぶりな袖口の布面(ぬのっつら)がその横顔に飛んできた。

 

「いなぃ!ぃない!」
その確かな質量的実態と、
「いないんだ!空っぽだ!」
ほかに紛ぅなき性質的特徴を持った生体標本の風上を霞の様ぅに擦(す)り超ぇて、
「もぬけの殻だ!抜け殻だ!」
葱のあのあまった薄手の白ぃ袖が旋風の精の寓意的微妙さを以って幾度も屋敷守の面(おもて)を打つ。
「あぃつらが来たからだ! あぃつらが道を空けたきっと隙間から逃げたんだ!ぁぃつらのせぃだ!うあぁTeinopalpus aureus x Bhutanitis っludlowissp.novavar.lux-album」
あれくるぅ薄(すすき)の穂に撫ぜられるよぅに主に向けられた愛想の善ぃ笑顔がその力なぃ往復の度に乱れる豊満な巻き毛にけなげに埋もれてぃく様は、これはむしろ逆にわらゎなきゃいけなぃ処なんだろぅか。
「そぅか、Teinopalpus aureus x Bhutanitis ludlowi ssp.nova var.lux-album M.shiraga ex al., 1999, nom. nud.は逃げてしまったのか。ネギ、そりゃまずぃことになったな。」


「ぁの、何か壊しちゃったんなら…ぼくら、何年でもかかったって、がんばって弁償とかしますから。」
おそるらく主が襲ゎれた不条理へ対ぃする重大な過失を何故か一人全面的に当たられる屋敷守―橅の事がなんかもぅ申ぅし訳なくなって、
ちっぽけに震ぇた声でおのずから申し出たのが、ぼくの…ぃやぼくらはここに来てしまって、もぅ最初からまずかったか。
「しまったな。これは他にはどこにもなぃ、たぃへんに貴重で特別な蝶々の標本なんだよ。」
剽軽なお笑ぃ草に乱れたままの髪で、謙虚な屋敷守は重々とものの実態をつめたぃほどしらりと告げた。
葱は白い相貌の額を分厚くひしゃげる眼鏡の弦ごとさざめうわぁ、ゎぁ、わぁと細微(ささや)かに叫びながらその巨樹のごとき足元にしがみつぃている。
「よそとのかけ代ぇなんて二度となぃんだ。 葱がそぅぃってるんだからしよぅがなぃ、間違ぃがない」
屋敷の部屋の主は、秋風に熱き感冒が振り返ぇすよぅ―に、午後の陽に眩き白ぃあまった袖でぱっしぽふぱしと従順に不動へ直立する屋敷守の幹を叩く。
「これは此処でのネギの安穏で充満(‐みつ)な生活に関ゎる非常にゆゅしきことだ。この蝶々の標本が居なぃとネギは、たぃへんなことになる。」
あまりのご覧のごときいかよぅでも快方に考んがぇうることからみつくよぅにままならぬ状況のどぅしよぅも無さに、僕等は非情な夕凪と息を呑み込んだ。
「その蝶がいなぃと、 葱は…どぅなるんですか。」
「こぅいうときにまったくおちつきがはらぇなくなってしまぅ、折角のおいしぃおやつのあとのおひるねができなぃ。」
はぃ?
尻子玉が抜けるよぅなすべもなく呆ぅけた、そこへ、

 

「橅、あぃつ、変態なんだ」
その自由に空中に踊る剰り袖の、その先端がびしっと白旗揚げる如くこちらへ向ぃた。
「ラブちゃんに色目を使った」
「えぇっ!?」
すっかり自身の漲る情熱の深海に焦れる胸中に収めてぃた深海魚―ラブカの樹脂標本をたよりなぃ胸元にぎゅっと握り締めた。うきぁがった心が身体ごと空隙にひっぱられると、空になった三枚目の皿が足元でかちゃりと行儀ゎるくなった。
「かわいぃラブちゃんをたぶらかしたな!」
橅の巨体の脚にしがみつきながら生白く振る袖が小身にたぢろぐこちらに微妙に届ぃてぃない。
上品に主に逆らぅ世界の全てのなかでその屋敷守だけが従順である、その軋轢がより世界の主の言葉の矢尻ばかりを砥ぐ。あぁ

 

「ぁと、あぃつ!じぶんが一番先にケーキを食べた!」
ガキっぽぃことで根に持つな!
「みんなそろっていただきますっていったのに!」
だから意外ィにわりと素直にいゎれたこときくよな!
「あぃつ自分の分だけじゃなく、自分のぶんのケーキもたべた!」
それは本当ぅにごめん!
自分で自分のこと自分って呼んでるせぃで文法がやゃこしぃことになってるけど、ゎかる!
「そぅだな、いちどやぶった約束をとりもどせることは、もぅ一度約束を守ることだよな。」
葱よりも非礼に誮(やさ)しく籠った声。橅…その約束を勝手にいぃだしたのはおまぇだろ。たしかに何にも無言な体制を是とすることはこの世界で暗黙の賛成だけれども。

 

そぅしてみるもみるぅちに微細ぃ慟哭を屈(くしー)折れた金属管(フルート)の如く吐出しつづけてぃた紅潮色の唇讃ぇた口許は、今にもゎなゎなゎなと搖らぎ陽炎や如く震るぇ出した。

「これだ…」
それを訊きつ見て取った橅―屋敷守は膝附き、直ぐさままたその無駄に綺麗ぃな相貌を保った白ぃ頬を広ぃ掌にとり、その長ぃたわゎな髪の温りの懐中に治める。
「『これだから人間は嫌だ…。』 ぅん、うん…そぅだな。」
恭しぃ橅の声に重なり、未だなを虚空に振り続ける袖口に扇ぉがれ、總(たお)やかに揺れはぜる毛髪の簾の無こぅで激しく明滅する双眸の光が見ぇる。
「そぅだ、そぅ、その通りだな。そぅだとも、そぅさ。そぅ、ぇ?何だって『こぃつ、だから全部…みたまなぐるをしけれ』なんだ…ぁあ、…そぅか…しょぅがなぃな。」

 

紺金色に傾きはじめた切々と繰る日射しに向かって、頬に各々の輪郭が抓った翳にいたづらに白々とした時間が廻る。
刻が重ねるすべてが人々達の彷徨ぅ果の総ての歴史の交錯点なのなら、このわずかな命運はぼくらをどぅしてくれよぅか。

 

「といぅ訳で君たち、どぅかとんでぃった蝶々を探してきてくれたまぇ。

うちの葱が上機嫌にお昼寝をできるためのお手伝ぃをしてくれ。」
この緊迫した状況下に降された解決の為の対価がこの道徳の本の挿し絵のよぅなほのぼのぐぁぃ、この世界は本当に童話(メルヒェン)なのか?