*ぷみささんちの白紙帖

ぼくのこころのふりーだむ。

*ぴちゅ:めゝんと∴ぱらたいぽ

https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/10/04/235248

*〔exspiravit ∃ureka papilionem

 

橅は窓のちらめく蜜色(みついろ)の外光を反射する金属(きんぞく)ナイフでさもヴィオラでも弾(ひ)くように三切れ目(みき-め)のシブーストを形を揃(そろ)ぇて切りそろえる。「お客人、君たちの名前は?そぅだね、うまぃ食事も目の前にあることだしせっかくだから動機(どうき)も聞こぅ。」
野暮(やぼ)なほど現存的(げんぞんてき)な話題(わだい)がここが、まご-まごぅなく現代(げんだい)の緊迫下(きんぱくか)であることを再認識(さいにんしき)させる。共(とも)の場を所有(しょゆう)する目の前の本当ぅにやばぃ奴から我(わ)が身のアイデンティティーを守るには、精一杯真面目(せいいっぱぃ-まじめ)に返すしか凡人(ぼんじん)には手は無(な)い。
「ぼくは大根。 ぼくは、この、近所(きんじょ)に住んでてこの、ゆ…お屋敷(やしき)に興味があって、家から一緒(いっしょ)にきました。
こっちは蓮根。
こぃつはなんといぅか、いつもぼくをいっしょに連れ回(つ-まゎ)して、なんでもするやつです。」

 

「スギモド?鐘楼(しょうろう)の番人だっけか?」
「それはおめぇだろカシのキ野郎」
葱が華奢(きゃしゃ)な身体(からだ)を小刻(こきざ)みに揺(ゆ)りながら昏低く(ほのぐら-)呟(つぶや)くのを尻目(しりめ)に、大きな腕が麸(ふ)くよかな黄珠肌(たまはだ)のケーキを軽薄(けいはく)な日の光(ひ-ひかり)ごとすくぅ。

 

「とすると、そこのお客(きゃく)さん達二人(たちふたり)は兄弟(きょうだぃ)なわけか?」
「はぃ、ぼくら双子(ふたご)なんです。」
ナイフの上で燦(きらめ)く黄金(きんいろ)の円(えん)の断片(だんぺん)がゆったりと羽のよぅに宙(そら)に浮(う)く。
「なるほど、君達(きみたち)はさすがに似てるね」
「いゃ、あまり似てはぃません。二卵性(ニランセイ)って奴なので」
飴渋色(ローアンバーいろ)の床板の木の上でシブーストがゆめゆめしくふわふゎふわと揺らぃでる。
「おゃ、そぅなのかぃ。そぃつは失敬(しっけい)した。」

 

「ぶな」
葱(ねぶか)がいつもの目許(めつき)で彼をぎとりと睨(にら)み付ける。
「よけぃな口を鋏(は)さむな。」

 

「くっふっく。」
主に名前を呼ばれた屋敷守(やしきもり)は満足(まんぞく)げに微笑(わら)っている。
「やっぱりみんな大勢(おおぜぃ)いるのはいぃね、ネギとも話が弾(はず)んで嬉しぃよ。」

 こぃつ本当にいぃ奴なのか、本当はそぅじゃなぃ奴(やつ)なのか、まじですっかりみんなかけちがぇてるぐらぃ純粋(じゅんすぃ)に天然(ボケ)なのかどっちなんだ?

 

ぼくはそれから散々おどけこばかしめかされた仕還(しかぇ)しに橅といぅこの男の正体の姿が本当にずっと何者なのかを、答ぇを衝き止めてやるまで考ぇつづけることにしたのだ。

 

「顔(かお)ききのもんどぅしのかゎらなぃ暮らしといぅのもね、もぅやがて思ぃ出ばなししかしなくなるもんなんだよ。
なぁ、ネギ」
親密(しんみつ)の主張(エール)が明からさまに相手(あいて)との親愛(しんあい)の情念(きもち)を損(そこ)ねさせてぃる。皿でケーキの上に日(ひ)に照らされた白泡(メレンゲ)がプチンと一つなく。

 

ぼくはこっそりそぅっと目の前の深海魚の角柱形の樹脂漬け標本を指で馳撫(な)ぜ脇の手元(わき-てもと)に引き寄せた。この席でその晶肌(つやはだ)は心に紅差すよぅに正直一番温まゅいぃ。

 

「なぁ大根、ボクも話(はなし)がしたぃよ。」
「そぅだね…」
もぅ何邏(なんら)かの解決策(かいけつさく)に繋(つな)ぐ情報(じょうほう)を聞出(ききだ)すどころか、こっちがかれらの、あやぅいありさまを ぼくらは、
なんとかぶじ平穏につなぐため
みずからもじぶんたちの事を話しはじめることにした。これが大木男(ぶな)が考ぇて仕込(しこ)んだ事ならば、ぼくらにもぅ本当ぅにうつてはなぃ。
…なんで自白室(じはくしつ)で場(ば)をたしなめるのがいぃ警官(けいかん)のほぅじゃなくて犯人なんだ?

 

「き…きぃてくださぃ、」
「ぉっさぁほぉらぃ自白ショーが始まるぞ、
二時間ドラマじゃ一番面白ぃ処(ところ)だ、なぁネギ?」
「そんなの知らなぃ。」
監獄守(かんごくもり)へ返(か)ぇす、そつなぃ素振(そぶ)りの口先(くちぶり)ながら、その壮純(そうじゅん)に鬱屈(うっくつ)した蛍光(けいこう)の眼先(まなざし)はぎょろっとこちらに向ぃている。
その物の真実(しんじつ)を否(いな)める事の赦(ゆる)しを辞(じ)さなぃ―主人の朧な肖像の博士の面影すらあるよぅな…
だにわがみのまことの心懐(しんかい)すらその鏡面(きょうめん)に読(よ)ませなぃ眼光は、 この崖壁(がんぺき)の罪人(ざいにん)の正直な吐露(とろ)を後押(あとおし)しする応援(おうえん)となった。
…とぃっても物の他(ほか)、かの博士への御家屋(おやしき)に対(た)ぃしこの様々な悪事(あくじ)を働(はたら)ぃた手前(てまえ)、
まるで人といぅもののとりかぇされぬ罪といぅコトを身勝手になきはらし情ででも赦し乞ぃ絆そぅとするいやしくも戯(おろ)かな情夫(じょうふ)のよぅに、
このただおさなく飴色(あめいろ)にこがれる―自己(じしん)の大切な"ほんとぅにきれぃな"心をそっとよりからめられずにまもるためにもしゃぁしゃぁと、 今更(いまさら)いままで重(つ)もりつもらせた愛の激白(げきはく)を情けなく並べ立てる訳といぅには、ぼくにはまずかろぅ。
泡沫(うたかた)に溶融(ようゆう)し弾(はぢ)ける甘苦(あまにが)さを噛み締めながら、
ぼくはみみっちく謙虚(けんきょ)な小悪人(こあくにん)として、肩おとし堂々(どう-)話せる犯行(はんこう)のそのまま"身の上(み-うえ)"だけ語(か)たりだす。「ぼくは蓮根に背請(せお)われて、
ここの窓から肩車(かたぐるま)ではぃってきたんです。そぅだよな蓮根。そぅだ…」

 

「一体どぅやってひとりで入ってきたんだ?」
「破(やぶ)られた窓の下に手近な棒切(ぼうきれ)が縦掛(たてか)けてあってな、あれの上に器用にのって梯子(はしご)替(が)ゎりにしたんだろぅ。」
部屋へ一際日射し(ひときわひざ-)のナイフと空間風(すきまかぜ)を灌(そそ)ぐ、かの窓辺(まどべ)を剣(ケーキ・ナイフ)先で差(さ)し、そつもにべもなく隙のなぃ探偵男(たんていおとこ)が代ゎりに返ぇした。
返事をとられた蓮根はなを可笑(おかし)げにこちらにフヒャフヒャとわらぅ。そぅいえばこの我が兄弟の蓮根と屋敷守の大男の橅の笑顔は、子どもにはうまくせつめいできなぃがどことなく似てぃる。
ほんとぅにぼくは少しはここにおぃて安心できる状況なんだろぅな…。一度安堵(あんど)に解(と)けた心がまたミルクティーのごとく暈(くぐも)ってゆく。
そんな精神(こころ)の坩堝(うずま)く情緒(きもち)にまた言葉を詰まらせてぃると、ぼくが見詰める眼指(まなざ)しの元へと-ことりと甘ぃ鼈甲色(べっこぅ-いろ)の紅茶カップが置(ぉ)かれた。
虹蜺色(オーロラいろ)の蒸気(ゆげ)に横顔を解(と)かしながらそれをさも嬉(うれ)しげにきらきらと覗(のぞ)きこむ蓮根は、「なぁ、こんなおもてなしまである幽霊屋敷(ゆうれいやしき)なら毎(ま)ぃん日(ち)でも終日フリーパスで入りたぃよな!」と口駆(くちば)しる。
これほどまでの暢気(のんき)さに兄弟といぅ引率者(サーヴァント)、ぃや保護者(セイヴァー)としての達観(たっかん)の溜(た)め息が出る。「ほれみろ、遊園地の幽霊屋敷だとおもってはぃってみたら、現実(ほんとぅ)はこんなに中身は違うんだぞ。」

 

それを切っ掛(き-かけ)に食器の鈴音(すずね)がキャンと鳴り、「くっふっく!聞ぃたか、 幽霊屋敷か!」シブースト・ケーキを片手に大きく樹霊(こだま)の怒(いか)りのごとく息吹(いき-ふ)き出しそぅになるよぅなところを橅が、黄金(おうごん)の剣を握ったままの幣た(ひら-)ぃ手の甲(こう)元(もと)で隠(かく)して笑ぅ。
「納得だ。まさに正体(しょぅた)ぃみたりか、一体どぃつだろぅな?」
「ここじゃ心当たりが多過ぎてわからん。」

 

あけすけにほほぇましく笑ぃされどしらりと応(こ)たぇるこの大の男二人。…この家の本当の事情を知ってぃる分、
蓮根のアホさのお蔭(カゲ)かといぇど、和(な)ごんでいぃのだろぅか、これ。

 

今までの孤独な緊張に産毛立(うぶげだっ)た身体(からだ)が弛(ゆる)み、まともな空気を肌膚(はだ)に感じ始めたが、もしかして最初(はじめ)っからいままで
ぼく等、すべてやったことは子供のただの可愛(かわい)ぃ悪戯扱(いたずら-あつか)ぃされてるんじゃなぃか?
この如何にもおかしな国に遏(まよ)ぃ込んだいやにばかてぃねいな玩話(メルヒェン)の絵本みたぃな茶会だってそぅだ。 としたら…だとしたら、どぅいうものか。

 

こどもとおばけとは相性がいぃものだ、その関係とやかくが、かくあれど。

 

「ここに居るのは全員おゃ眼鏡ばっかりだな。硝子板(ガラスいた)の一揃(そろ)えに寄り掛(か)かり、
この世の見づらさを同じく共有する眼鏡諸氏(-しょし)として仲良くしよぅ」
「蓮根は眼鏡じゃなぃですよ、確かに目は余りよくありませんけど」
「おっと、失敬」
八ツ頭(や-がしら)のごとく大きな手で、細めのフォークを切り分けたケーキに添(そ)ぇた上品な装飾の皿を兄弟の膝元へ重なるよぅにコトリと置く。
「もぅ一人のお客へのお皿はここでいぃかね?」

 

「ゎわっふひゃいただきま―す!」

間(ま)をまたずして蓮根は無邪気に皿の上をぱくつきだした。

 

和気藹々とした幽霊達の茶餐(ちゃせき)が、このままどぅやら楽しくすめばいぃと思ぅのんきなあたまに甘ぃ希望(のぞみ)が映(うつ)った自分に驚ぃた。

 

「あとぼくのメガネは樹脂(ジュシ)ですし」
「若ぃのに小難しぃことに細かぃな、君、ヲタクだね?歓迎する
 よぅこそ、罪人達(つみびとたち)の茶会(ちゃかい)へ。」
だがしかし、大男が気障(きざ)に冗談めかして嘯(かた)った現実はあまりに洒落(しゃれ)にはならなぃ。
口許を汚したイタリアン・メレンゲを思ゎず丁寧(ていねぃ)に拭った。

 

この世界のなにか一とつでも、本当にメルヒェンなのならば、ぼくらはこのままお可思議(カシギ)な茶会ごっこを締(お)ぇて、おもしろお楽(カシ)しくお家に帰ぇれるのかもしれなぃ。
―だとしたら総べてのパラ、パラドックスでぁり、パンドーラは―この物語の主―彼のことである。