「ん―…でも、みつけ~なきゃ…、みつけなきゃ。大切な、こと、その、ショク…ショクム……用事だから………」
唇を甘噛みながら言葉尻の歯切れもしょぅもなく、
まだそれは年端相応の、それでぃて成長にはちきれん速度の躰肢〔からだ〕におぃすがるような、膝上までの短ぃズボンの端と端ををそれぞれ両掌で掴みもじりながら、足頸に絡み付く未だお尻によくきくだろぅ鼻押込めるがごめちゃんの縄の内で幾度も地面を踏みつけるよぅににじにじりつかせた足裏を道にへ叩く。
いっそのこと正直にいってしまぃたぃ。
『夢の中の蝶を探しているんです。』といぅことを。
そぅなのだ。 わかっていた。
最っ初から、全ては誰かの夢の中、
これは夢の中のおはなしなのだ。
夢のなかのものを探すのに、
こんなところじゃ、こんなところじゃ
いくら"現実"のはなしをしたってはじまらなぃのだ。
「探さなくちゃ、追ぃかけなくちゃ、見つけなくちゃ。」
萩野のおばさんの鳳仙花〔ほうせんか〕の種でもぱちぱちと沸き出るよぅな話と言葉はその-テレビの理科教材の-スローモーションで一粒一縷〔ひとつぶ〕をひきとめるよぅに永〔なが-〕長くつらつらつづく。
その甘苦しぃつよさで脚に絡む、擦れた赤ぃ手綱の重みは、よけぃ"じぶんだけ"の正体のみぇない焦〔じ〕りをしばしばとはぢかせた。
そんなまだ小ぃさな柔〔やさ〕く俯く旋毛[つむじ]を見てをふっと笑った。
「そぅなのね、大根ちゃんが大切だって そぅ、いぅのなら、気が済むまで探がしなさぃな。でも日が暮れる前にお家に帰ぇりなさいね。
もぅ真っ暗になってから戻どってしまったのだら、あなた―お母さんも、心配するのだから…」
そぅして軽く儀礼のよぅに身支度を調ぇ、
その同時に連れ相〔あ〕ぃである飼ぃ犬の赤ぃ綱を引く、その腕にあるのは
本振りに込めた力ではなぃ。その仕種の曖昧を名残惜しさ、と知るのは、一迅の風の加速度の生命〔いのち〕の中に生きる子にとってまだおぼぇるはいくばく先の感覚だ。
やんゃわり、鼈甲色〔べっこぅ-〕に輝く雲もさきほどまでより心なし上品に誂〔あ〕つらゎってぃる。
「じゃぁおばさんもこれからお夕飯をつくるから。 窓が電気がつぃていて光の射してて明るぃのならばみんなあたしたちそこにいるからね。
みんなちゃんとあなたのことを
みんなでいっしょにみまもっているのだから。
お母さんと二人で、なにかあれば、なんでも家〔うち〕にいってちょぅだい…
そぅよ、そぅ
困ったときは、いつまでもひとりでがんばらずに、そぅね
大根ちゃん、 本当のこといぇる、お友達つくりなさぃね。」
「ぼくおともだちいますよ、そんなにそれなりに…たくさん」
じまんじゃなぃが、ぼくは学校では、よくみんなぼくのことをいっしょに、あそんでかまってくれてぃる。
蓮根なら彼へくってかかるのはへんにからかぅやつばかりで、またやつもひょぅひょぅとそれをすりぬけいまぃちおぼつかなぃことなのだが。
周ゎりのみなさんもいつもほんとぅにありがたぃけれど、それにしてもよくまじめにやってるぼくばっかり心配をするよな。人が気に掛けるものは、本当に危なっかしぃよぅなとぉまきめぃたものよりその手前、自分にもっとよりぁえるちかくにおれるよぅなものなのかもしれない。
ただその脇でもはぁハァと規律的に風音のなかで息遣ぅがごめちゃんの巻き付けた幾重の縄の輪を、ぇっと勢ぃつけて高くへ膝をあけてひくと、
ことのほか ほっとした軽さにひょぅしぬけた。
ききゎけがいぃのかさぃしょからこっちのことなどおかまぃなしにわかっているのか、舌をぺろり朱のおひさまに染めながら
ふわふゎの柔〔やゎ〕毛を風に寄せ、それはすべてただいきづかぅまにまにだまってからかぃおわったと-さてはきぶんはもりきったと
あしごとはねぁがるせすじを―こくびを傾しげながらきょろつぃたうぶな瞳でしっぽをふりふり看過した。
始め地獄の番犬の様ぅに見ぇたその姿は、童話[メルヒェン]の幸福の生き物―ケサランパサランみたぃに、その綿毛に今の空色と同じ金色の光を抱きこみながらはねてはねまゎり、この駆ける向こぅの背中へ遠ざかっててゅく。
その柔ぃ霞[かすみ]のよぅな毛にうずもれる黒ぃ睚[まなじり]だけがやがて頚許[くびもと]のその綱に牽かれてきり隠くれのよぅに***く―
その光に、不思議と弟の顔を思ぃ出した。
夕諷[かぜ]の湿めりけにまろやかにたゆたぅかそけくからまる雲のなか、
まるでミルクへ紅茶が灌ぐかのよぅに、
やがて暮れゆくこの道の続く世界のなかで、
万流の朧[にじ]む幽玄の空をか細く黒ぃ電線の影で切り分けながら
規則正しく律儀に並ぶ電柱の上白々と点[と]もる電灯が、
時計仕掛けの夜を告げるだろぅ。