*ぷみささんちの白紙帖

ぼくのこころのふりーだむ。

*ぴちゅ:めゝんと∴ぱらたいぽ

https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/12/15/031105

***〔exspiravit ∃ureka papilionem
「大人なんてみんなさ、寝る子は育つんだ―なんていぅだろ?」
その声は後頭部〔うしろあたま〕の耳の付け根の無防備で硬たぃ辺たりらへんから響く。
 
「ぼくらたちなんかよりも、それだったらまるっ切り、あぃつらよっぽど子どものままだよ。」
神出鬼没な弟はその唯一よく効くころりとした片目だけで小鳥のよぅに、ひょっこりとかたむけた首を丸〔まる〕ごとで横倒しのテレビ画面みたぃに視界に飛び出させた。
「あぃつらあのとぉり、ねっころがったまんまだろぅ」
そのいつもとかゎらないあっけらかんな"横"顔は、ちぐはぐな歩みで自身に沿ぅなにか自身がゆりかごのよぅに上下〔あげ-さげ〕してぃた。
「ねんごろねんねでさ」
どのみちにかつぃた声ではずむよぅにそらへうたぅ、そんな弟のへんにやかましぃ存在感を横目に追ゎずとらぇて離さず、
「ぼくはしっかり不思議なお茶や美味しぃケーキやなんゃらみょぅにふかふかした白ぃ服の袖さんざんを喰らったりしたけども」
それはそれでまるで口にすれば浮世浮き浮きしたツッコミ所の多ぃ事がらばっかりだったが 
それすらもきぃてかきかずか、まるで弟のその言の葉は風の生まれる処みたぃにはじめっから決まってぃたよぅに謂〔はな〕しをしつづけるのだった
「あぃつ等〔ら〕自分達でこさぇた夢の世界をまるまるここだけ囲こっておぃて、めっきりそこから覚める気がなぃんだぜ。」

その自分と寸互ぃなく重なる身の丈に陽の光を透かして歩むすこし斜めの在処〔ばしょ〕に隣の弟は、その雀の羽翻〔ば〕たきの交る景色を包む夕影空が照らすその道に添ぃ立ちぁがって続くトーチのよぅな柵のまるで彼の仲間のよぅにだらしなげくのびる影を踏みながら飛び跳ねてぃた。
「ボクにゃさっぱりそんなのさあたまにゃ入ぃらなぃね、まるっきりつまんなぃね、ぷひゃっへへへっほほっ」
そんなわが弟は何時もの常識人には嫌味たらしぃ如何にもにうつる素直な享楽さを観せながら、それでもなぜかそこで笑ぅのだった。
 
それでもこのばかな自身の弟といぅものの蔭〔カゲ〕は、
いかにもヒカンにくれるユーウツなこの見えなぃ首輪に繋がれた脱獄を、それでポンチでとんちきな逃避行のよぅなお笑ぃ草に変ぇるよぅなものだ。
「はてはさて、それではボクの利口な兄よ。
僕等を野に放った古城〔おしろ〕の囚われのお姫様のゴキゲンを治すため、
どぅしたらってばぼくらはシンシにあのモンスター・ハウスへ戻れるっていぅのさ?」
まるで形無き陰影の波紋〔ゆらぎ〕にもつれることを逆手に楽のしめるかのよぅに、
お菓子一つでお供に命懸けだとか、うばぃとった財宝のもとの持ち主はどぅするんだとか、学芸会の童話の英雄譚にも白らけるよぅな背伸びする年頃の子供に、ふざけ茶ゃ化した浮化〔うか〕れすがたは
釣合振子人形〔やじろべぇ〕の玩具〔おもちゃ〕じみたふらちな徒〔あゆみ〕で、
「城から野に放つのは魔王のほぅじゃなぃか…。」
あのやはり眠れる窓の内の部屋にも踊どけ賺〔す〕かした、大丈夫〔おぉじょぅぶ〕の有り様とぼくに印象をぃやにかくにも重さね被らせた。
「…案外ぃ、あぃつは適当ぅになんでもなんかを、ぼくらがちゃぁんとほら、つくしてやって来たぞってぃうことにすれば、きっとカンベンしてくれることになんじゃなぃのかぃ。
ねぇ、そんならばさ…ちょぅどもぅじき日暮れだし、鐘でもなったらなんとかいってもぅさっさと帰ぇっちゃぉっか」
そしてそれはかくも助すけにもぼくをよけぃに聡明な方ぅにするのだ。
「でもネギ…葱はどぅだろぅ。」
 
滲空色に映かぶ白ぃ細月の爪踪〔-あと〕のよぅな意識の極光を想ぃ出してぃた。
からがら絞り出した雲の糸の光線よりも微細ぃ声音が、
擦り切れた映画の感光帯〔フィルム〕のそこだけが眩筋〔まなすじ〕にひっかかるよぅに
その目の腥〔なまぐさ〕さが宿す鮮〔さや〕かの色彩を融解〔とか〕させながら欠片〔かけら〕になって溢れた輝粒が碎〔くだ〕け床にでもおちれば、そこから魔方陣でも生まれるものかと、おどろぃたものだ。
「そぅいうあのオモテのガワのぜんぶがでっかぃヤツみたぃなのと同じことはそのカゲロウみたぃに白っぽぃのには一番ジャケンにされるんじゃなぃか?」
ぷひぷひぷひっと
結局はぼく(ら)を縛り付けて居るものは、見もしらぬ化物のみてくれのまぼろしの剛腕ではなく、そんな矮ぃさな透過玉みたぃな宝石の煌めきなのだ。
 それが真の人の情と言ぅなるものなら、いかにも本当〔ほんと〕に逹智〔たち〕が倭〔わ〕るぃ。
「そんなこといったって、"みたこともなぃ蝶々"なんて、どぅやって捕まぇられるんだよぅ…。」
「なにをそんなにしょぼくれてるんだよ大根。
まるで星空からぶりまぃた砂を一粒ひろって見付けろっていってんゎけじゃなぃのにさ。
 
簡単なはずだぜ、なんせ僕らはだってとっくにそれを知っているんだからさ?」
またまた潤みかけた瞼に合ゎせて空虚に滲みかけた頭の中の一部が、蓮根のその一言で自然に鮮烈な印象のスクリーン〔映写〕になる。
 
織り込むよぅな黒灰の崑〔くら〕さのなかに、
螺模様〔まだら-〕を梳かした極光彩の映〔さ〕めた明翠〔みどり〕。
煤〔す〕ずけた硝子と重なる恰幅〔ひろ〕ぃ翼はショゥケースの奥の魔法のかかった絨毯のみたぃに、このじゎぁと血流の代謝に澄んだ眼に一瞬でも貌〔かげ〕を焼き付けた。
 
なれば、されど男児女児問ゎずともその興奮心をぐゎぁと掴む図鑑の見開総天然色頁〔カラー・ページ〕にも威風たるかれの堂々の大王の系譜たるものでそれはある。
だから蓮根…あんなに奇麗ぃな大きぃ羽根…あれはきっとアゲハチョウの仲間なんじゃなぃかと思ぅんだ。」
ぼくはまるで虚構の漫画の探偵めかしたみたぃだがこれが先者〔さきもの〕がやるだけわりとほんとにおちつぃて、まだ軟ゎぃ頬を硬派に包むもおさなく丸ぃ顎をすりすりと人差し指で撫ぜはじめた。
 
 
「アゲハなら知ってるよ!ミカンのくさぃ木にぃて、くさぃあたまにでっかぃ目んたまあって、真っ緑でつつくとにょきっとくっさぃ触角きぃろいの出す奴だろ?」
 
「それは幼虫な、蓮根。あとおまぇのそれは目じゃなくて『眼状紋〔ガンジョウモン〕』といぅただの偽物の模様なんだ。そもそもおまぇがいってるのはナミアゲハのことだろ。アゲハチョウの仲間には幼虫も各々〔かくかく〕の食草に食樹、食べる葉っぱの種類が見た目と共に非常に多様で様々だし…」
 
「でも目玉は目玉だろ。目玉なものをちがぅといったらなんなのさ、そりゃすゎりがわるぃよ」
めんどくさぃからかぃかたの弟―〔ワトスン〕の助言はとりあえず
推理に多忙な素人探偵は自身の頬をぅにうにとつつく指先と一っ緒にぷらりと脇に置く。
「それに立っ派な成虫だっただろぅ。もぅ蝶だよ、 だから蝶は蝶のいくとこにいるんだ。 もしもメスが卵を産みにくる時だけなんじゃなけりゃ…」
…この世に『いなぃ蝶』だって卵を生むんだろぅか、命を宿すんだろぅか
「じゃぁどっかの花畑かハンバーガー屋かコンビニ前にでもいるのかも」
この世に『いなぃ蝶』だっておなかはすぃちゃぅのかな…
「コンビニ前なんて夜に集まる、蛾じゃあるまぃし」
「あんがぃ灯りのあるとこによってこなぃかな、もぅ空は暗くなっちゃぅし」
「だから夜に光に集まるのは蛾だよ」 …
 
この世に『いなぃ蝶』でもねるのかな。
まだ尖り辛〔から〕ぃほど新鮮な露を残して記憶の遊〔あそび-〕紙に挟さむ初めて見たあの板床に転がる白ぃ相貌を思い出してぃる。
「そんなにいなぃぃないしてぃる相手をいなぃいなぃいってたら向こぅだってわからずゃには気分が拗ねて出てこなぃぜ大根。
 
「いなぃもののいなぃ気持ちをいなぃ場所でかんがぇるなんて、そんなの自分の妄想しかなぃじゃなぃか。」
 
「想像だよ、ソゥゾー、大~根。 ガッコーでだってお友達へのそれが大切ですってやってたろ、みんななかよく思ぃやりさ。 ドッカィ、ドォトク、ガラガラドン
なんにしたって そりゃとびだして―まず外でどぅしたぃんだってんなら、
はらごなしはしたぃもんだよ、ただでさぇ箱の中身でずっとひからびてたんだろ」
 
「そぅか…行く道をなぞればいぃんだ、蝶々達が行きたくなるよぅなところと行く方〔い-ぇ〕がつながればいぃ。そぅかもしれなぃね。」
 
 
各々〔それ-ぞれ〕そぞろに思惑〔わ〕く思考の内で何刻の間にかこんこんとうつむきはぢめてぃたかぶり揚げて立歩く世界の周りを見渡す。
「あの蝶がアゲハチョウの仲間なら、湿った水の溜まったところ、水たまりや水辺なんかに水をのみに集まってくるはずなんだけれど」
 
 
噂をすれば立つ影とはずっと自身逹のことで。
 
この町内の中枢に位置するあの-幽霊-屋敷から、とりぁえず―あの屋敷守から差し締〔し〕めされるままに、まるで逃げるよぅに離れるよぅにと歩ぃていた僕逹は、
 
この町の底へ打ち付けられた風土へ沈む暗澹〔あんたん〕とした
せせらぎを耳へ夕刻の気〔け〕に聞くことになる。
 
「ぉやちょぅどあるぞ、水っ気のあるところだ」
気が付くと二人して、僕等はその橋〔はし〕の袂〔たもと〕に来てぃた。
 
 
「それにしてもだけど、蝶々なんて花で蜜吸ってるだけじゃなくってさ、なんでアゲハはわざゎざ水たまりを探して寄ってくるんだ?」
「他の蝶も集まっているよ。地球上の生物にとって水は貴重だからね。
ただ、アゲハは水とか道に撒くと大ぉきな身体ですぐ来るから目立つよね」
「でっかぃ羽でバッサバッサしてんだから花畑の葉っぱや花びらの滴〔しずく〕だけじゃすぐ喉が渇ゎぃちゃってたりなぃのかもな!」
「昆虫、蝶々も汗ってかくのかな…。」
汗っかきの蝶々だなんてあんまりぼくら子供には想像がつかなぃ。
そんなからから笑ぅ弟と共に並ぶぼくは、たった今僕達が望み決まった目的地―出発地にいつのまにゃら到着していたのだ。その託された―いたぃけでいつくしみぶかぃいかれた使命〔ミッション〕の。
 
ちょぅどその目の前の、おあつらぇの僕等のおさなぃ世界のほとり。
それは川にかかる長くもなぃ短ぃ橋、コンクリート舗〔しき〕の平らな灰色もうらぶれて―導く―そのおく手に拡ろがる子供の足には観眩〔みまが〕ぅ情景克つて果てのなぃ無限の途方。
「この橋渡って、向こぅ側にいっちゃってたらどぅしよぅか…。」
 
 
「あぃつら川は超ぇないよ。だってもぅあぃつらは元々あの御屋敷から出てきた奴〔やつ〕らだもの。」
それは向こぅ側の、道の先はかくもがらんどぅの日常を味気無くマナ板にのっけるみたぃに行儀よく―その
夕かげに覆ぅ抽象〔ルノワール〕色の蔭の靄〔け〕ぶる景色を遠目に迎かってわが弟はぽんゃりと言った。
「律儀なもんだよ。シゼンの癖に人間のキモチに従ぅだなんて」
 
なんの根拠があるのかは知れないが、それはいつものこぃつのことだ。
先程の顛末のとぉり彼奴〔きゃつ〕の勘は鋭ぃ―嫌な方向に限ってな―訳なので、
ぼくはなんとなく、そんな幼ぃ自身の弟の言葉をきっかけ恃〔だの〕みに真に受けることにする。
 
 
 
「あの逃げ出した蝶々は二羽だった、
葱が確か…あの箱のなかのまんま…そぅいうんなら。」
ぼく逹子どもの足が…この鈍炭〔はぃ〕色に日が暮れるまでに…何処か"いなぃばしょ"へ自由の自在に飛ぶ蝶々を二羽をも二羽揃って、探し―見っけ出せるんのだろぅか。
 
 
「二羽いんなら、こっちも二ワじゃん。じゃぁなかよくどっちみち二人して探しゃいぃじゃなぃか?」
 
「二〔ふ〕、たりで………」
思ぃつかなぃ逡巡に、放ぉられた答ぇに戸惑ぃ拿添〔なぞ〕る空へ視線が游〔およ〕ぐ
「それじゃぁこの川を二人でなぞるだろ、
大根があっち回ゎりでボクがこっち回ゎり。
それぞれ川を逆に回って、二人で手分けして、あの蝶々を探そぅぜ!」
 
さしたればそんないなせ上戸〔じょぅご〕な決断とシンクロニティきゎまった突っ飛な切れのぁる仕草でびっ、びっと、伸ばした腕の袖先で互ぃの反〔そ〕れたる道筋を路かける踏切棒のごとく指し示し、
「ほぃんじゃぁ、二人で作戦ぇン開始ッケントーを祈るぞ大根〔ひろちか〕!ぷひゃっへへへっぽふへへ―…」
「ぁっおぅっぉい、―蓮根!」
我が身に振り掛かる状況の風景を掬〔す〕くぅだけで精一ッ杯の僕の意志の確認を求める隙なく
もぅ
駈けぁがった影がおどりたちむかった先を振り向けば、かの素駆〔すば〕しっこぃ弟の我が隣の姿はもぅ、刹那の、夕凪の微風のなかに見ぇなくなっていた。
 
「まったく……しょぅがなぃなぁ、蓮根〔すぎもと〕。」
すぎ去った現実の無問〔むなし〕さにぼやく狭間ももったぃなぃ時間だと、代謝も熱つく軽ぃ児童の身体の跳ねる鼓動に仕種〔わざ-〕とらしぃ ぽん、と溜め息を吐きながら、ぼくは彼奴〔きゃつ〕と反対方、こちらの道へただ歩きだす。
ただ*いなぃものを探がして。
そんな滅駁〔めったら〕な心情〔こころ〕の霧の中から容〔かたち〕のなきものをつかみだして、
勝ッ手に色や名前を付けて、まるで子どもが好きに物語を紡ぐかのよぅな―…
…こんな…"お休すみまぇ"の「おとぎばなし」につきぁうことにしよぅ。ぼくらは互ぃにそんなはっきりした言葉を交ゎさずに、真当真面目にこの『主のご機嫌とり』にあの
眦〔まなじり〕が照らすよぅな懇々〔こんこん〕と断罪の刻限と解放の救ぃを招き寄せる日が沈むまで駆けずり勤しむことにした。
 
 こんな―もしかは命も懸けた―本気のごっこ遊びなら…これは一とつの、もはや儀式〔ギシキ〕じゃなぃのか。
 
 
 
「なんにせよ蝶のいくところを探さなきゃ」
「それじゃぁ」
 
それは川といぅより、人間の生活に相触れることを断絶された水路は、まるでぬめったくゅる蔭を詰め込む柩のよぅだ。
 
白ぃフェンスはここに暮らす人々の安全を衛ると誇たかげに立ち、そんな水面を奥目に望み
そのすぐ隣を並行しててくりてくり歩く度に
子供心にも趣訴っぇる可愛ぃらしぃ地域の花鳥を模した意匠が、帰路につく柵を超ぇる羊達のよぅに段々と波打ってぃる。
 
まるでそのメリー・ゴゥラウンドに無駄に暇でも潰すよぅに、ただひとりで見ぇない灯りをぼくは探してぃる。

 

*

 

こんなに課題も答ぇもなぃ自然観察なんて、義務教育中のいぃ子のぼくにはあまりもぁってとほぅもなぃな…。バィンダーもなぃんだ―どぅすればぃんだー。
 
 
まるで家に帰ぇる理由(わけ)を見当違ぃにはげますよぅに、河川の流れ向かぃと平行添ぃに、ひょんっと指先をちぢこめる風が吹く。
 
いたずらに美しぃ夕焼けだけがぼくが足を進める原動力だ。
 
 
世界はこんなに優しぃのだけれど。
満たされ過ぎた籠のなかだからこそなを、満ちぬ我が己を苛めるよぅに心の狭間に孤独が浮かぶ。
 
 
葱達と、僕らがいきる世界は、
この街のぼくらが棲む場所は、その新旧築外様に織り交ぜた人々暮らす住宅街を囲むよぅに、回(ぐる)っと一本の水路が通ってぃる。
何本かの鉄筋製の橋を掛け日常と光景のなかで通過的に股がれるそれは、幼心には呑み込むよぅに深淵(ふかゞ)しぃ谷底のよぅなのだけれど
平地の山間ぃの野を開発した土地で、昔は清流の小川だった、と学校で教ゎった。
その中で一際立ち広大な敷地と洒瀟た建構ぇを持つ白河家―つまり葱たちの邸宅は、元はこの辺を治めてた領主の旧家だとかなんとか、そこをぐるりと包ぃ流れる小川は司(ま)もるお堀だったとか。
つまりは、見た目こそ普通の現在の宅地でぁるこの街は、まるであの御屋敷を貴賓さの中枢―ランドマークみたぃなふぅとした城下町のよぅなそぅいう雰囲気を醸してぃる。
 
つまりそこにやってきた、雪さんは古城のうつくしぃお姫様のよぅなもんだったといぅことだ。
 
人寄せぬ厳かな白河の主の元に門出を開き、その豊かを分け与ぃた―精神的象徴たる―。
 
あそこが『幽霊屋敷』になる前ぇは、社交的な雪さんの人柄の雰囲気と合間って、婦人達の交遊の風情なるや華やかなもんだったらしぃ。
 
 
…そこに迷ぃ込んだ当時の僕の母親は、
さながらマッチ売りの少女みたぃなもんだっただろぅか。
いまのこの閑かな舗装道を泥靴でさ迷ぅぼくのよぅに。
 
いまは丸で故国の貴族達のよぅに、それは時を重ねて褪赭(セピア)に恭(うゃうや)しくあぃさび、ぼくらにとって御伽噺のよぅに懐かしぃ語り種を残すだけ。
細くも深ぃ一川向こぅ、まだやっと背に離れたあの橋もかからずも遠ぃ、混凝土コンクリート)の固ぃ岸に
人間達の不恰好な生き様をまるで自身達の有様で赦すかのよぅに
ぼぅぼぅぼぅ、と蠢きながら、
無機的で孔雀色なフェンスの向こぅ側の国有林の繁茂(しげみ)の中で、黄昏の陽から隠れるよぅに自然のままの色の草が揺れてぃた。
 
その中に、小さな薄明かるぃ星のよぅな光をふと幾付(いく-つ)も見付ける。
 
自身の眼鏡を指で調ぇて、瞼に心地よぃ充血を与ぇながら目を凝らすと
それは夕暮れより早ぃ深常磐群青のなかで、彗星塵が紫燐光をたなびくよぅに揺れてぃた
「なんだろぅ?」
 
ぢりぢりぢり、と相目瞑(あい-まみえ)るほど雙(そぅ)影(えぃ)の暗闇にそれは増ぇるよぅで、
 
その、白双糖にも似た―粒(つぶて)は、ふるびれた森のなかにたくさんに広がってぃる。
 
 
それはあの葱の、放つ細髪(ささめ-)の光にも似てぃた。
[(蓮根は川の向こぅに行かなぃなんてゆってたけれど、本当ぅにそぅなんだろぅな)]
 
 
朧な自分の眦(まなじり)の力のなか、
ふしぎとそれが、なにかとてもひどく甘ぃものにかんじて、
 
白粉のさらさらした塗料の風化に脆びれた金管(パイプ)のフェンスを手元に掴みながら、喰ぃ込(イ)るよぅに引き付けられてぃた―
 
この世-界ではみな、霓(うつ)ろに張り巡らされたまるで透明な細っこぃ糸に絡まった*なのか。
もしくは、それは生まれるための繭なのかもしれなぃ。
 
 
不意な眼奥の神経系から点(ひ)が飛ぶよぅに体幹貫く振動に、身が揺れる