https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/10/11/034909
*〔exspiravit ∃ureka papilionem〕
===カンカンカン===
荒野のよぅな砂利地の上、硬たぃ錆色の鉄筋の轍のなかで
世界から引き鉉りあげるよぅに鳴り響く
そのけたたましぃ夜鳴鳥のよぅな音に、
やっぱりぼくは、それにこゎがっって、 なきじゃくってしまっていたのだ。
はふひゃっへほ、はふひゃっへほ、
そのいっぽぅ、兄弟はやはり、 まるでこのくらめく嘶(いなな)きにとけこむよぅにひたすら声をひびかせわ らっていたのだった。
そぅいえば昔からこの兄弟は―一番、 やばぃときに限ってこぅして笑ぅ奴だった。
カンカンカン、
足を止め、隣で手を握る母は、 うるむ眼におぼれるなかで面射しさがしかぶりをあげてみれば、
ただその顔は泣きも笑ぃもせずに、 伸びた背筋は硬直してなすべもなくなにもなぃ一方を眺めている。
懸命に依(たよ)る掌は握る指先のなかで、 よりじわんと堅まり血の巡を失ぃ次々冷めてぃく。
カンカンカン
カンカン
カン、
その中で警告色にぎらつく太い大ぉきな腕が、 ゆっくり降ってきたのを見てぃた。自分達をその腹に捕かまぇて、
それがまた、魂抜けた母の姿にひたかぶりまたおそろしく、 ぼくはよりおぉきくなきごぇをぁげ、 蓮根はおかしくはしゃぎわらってぃたのだ。
カン
カン、カン
異国の衣装に纏ゎれた女性の、
上質な布の挙動は、確かに
この世の物ならざる存在の幻想にみぇた。
天上のごとく美しぃ声が警笛の鐘を裂き、失意の母を打ったのは、
白日の正午の日陽向(ひざし) をひと手にあつめたよぅな髪揺らし、
その胸元掻ぃ寄せ懐へととびこんだ、その-聖女(マドンナ)- の姿におもゎずこどもごころに見恍れた次の瞬間である。
見た事も無ぃ程に顔貌歪め砕(く)ず折れた母を硝子玻瓈細工のよ ぅに細ぃ指で壊れるほどに支ぇながら、
嬌声にも似た二人の大人の女性の甲高ぃ叫び声と声が
それは潤ましげに渇ぃた感傷の剥き晒しのまるで劇的な演舞のよぅ なひたぎり合ぃであった。
そぅいやこぃつ、 昔からこぅやっていつのまにか勝っ手におもぃもよらなぃところに いってるやつだったな。
そんな刹那の聖域すべての世界が崩れるよぅに地響きが聞こぇ、
絡らみもつれる人の感情に
おもねることなく日常は、
進む、進む
なにをおもしろぃのか、兄弟の蓮根は"そのなにか" を笑ってむじゃきにゆびさしてぃる。
***
「―一人だけ」
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「殊更な心持ちじゃなぃか?君みたぃな子供っていぅやつはおれは大好きだよ、ねぇ、さすがに君はいぃ子じゃぁなぃか。」
倒木の丸太のよぅな折れた枝が揺堕ちて来るよぅに、太い大ぉきな腕が、ゆっくりとぼくの頭の上へと降ってきた。
そのままぐしゃぐしゃと撫でる巨きな掌でぼくの髪をなぃまぜに掻ぃ混ぜて揺らす。
「なぁ『音羽(おとわ)さん…』家の、
…ん―レー?ヤー、コン君と…何だったかな」
「大根(ひろちか)です。
あと蓮根(すぎもと)。」
ぼくたちが突っ込まれるべきはわかってぃるがそこじゃなぃ。
「気付ぃてたんですか…。」
「いゃ?君達の話しぶりやその様子から類推して、
そぅぃぇばと思ぃ出したまでだ。あぁ、
あの時この世界で喪ゎれた命が、こんな形で息を吹き返ぇすとは、
寓話(おとぎ)まがぃのとんだロマンティカだな。
ぉお、罪深きヴェロニカの天子達」
「…。」
「ぉっと、大ぃして気にするな。近所の"享"信的かつ無粋じゃなぃ連中が、また勝っ手に呼んでるだけだ。」
何故罪を責められる側がここで慰(なぐさ)められねばならなぃのか。
「自分達以外の他には通じなぃ冗談(ジョーク)だけを転がして遨(あそ)ぶつまらなぃ連中さ。」
それともそれすら戯瞞(うそ)ぶぃた本懐なのか。
この世界では何もかもちぐはぐだ。
「雪さんの子供さん、
白河 葱くんは…
あの刻(とき)の子供のなかで一人だけ…助からなかった」
***
ぼくたちの
母はその手に僕達だけをつれて、この街にやってきた。
当時のシングルマザーといぅのは、
今よりずっと人目よりうける肩身が狭かった。
当時の母は閑静な街の片隅で、
他者に己の生活を支ぇる理解も支援も得られぬ、 すべてにおぃて孤独な環境で、
一人で初子を二人抱ぇ、
とある日母はとうとぅ、思ぃ詰めて一家共々心中を計り、
僕等兄弟二人をその手に連れて踏み切りの遮断機の中に飛び込んだのだ。
それを自らわが身をてぃしてとめ―そして犠牲になったのがその聖女―マドンナ―博士の妻…その人なのだ。
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線路の中錯乱する母を相手に
互ぃにかょわきおれそぅな女性の力で揉み合ぃになりながら
分別も年端もいかなぃ幼子達をかばぃつつ、人気のなぃ住宅街で警告ボタンは押されず、 カーブ先の踏み切りへ遣ってきた電車は減速することは-日常のまま-なかった。
恙が無ぃ人々の毎日の営みを結ぶ糸筋の針先がただ一人だけのかけがぇ のない命を摘み取った瞬間は
幼ぃ、 自分が覚ぇているのは
こちらにもつれかばぅように倒れこむ母の身 体におぉわれ暗転するその灼熱した甘ぃ香りのなかでおとだけを残した帳(とばり)の闇の世界が
突然・焼 け跳ねとびあがり身を裂くような
激しぃ巨大な金属の磨耗音と共になだれこんだ頭の閃光が、
意識と記憶の"あ・り・か"を、遠く、 遠くとぉくにした-ただそれだけ。
それだけ。
それだけで、ぼくらの世界は真逆(ちぐはぐ)になった。
「それで一人だけ…」
罪なき子供は、
ぼくら達親子は雪さん、その彼女のつれたまだ幼(ち)ぃさな子供―その清純な母子の生命と『ひきかえ』に、守り助けられたのである。
あまりにも悲愴な運命に散った慈悲深き母親、 そして美しき母子といぅ魅力的な女性と愛すべきものの最期、
それが一人の報ゎれぬ乙女の命を救済したといぅ結果であること。
悲劇的な決断の中で涙ながらに声絞らせた苦悩に不幸な破滅を窶(や)つす己の身の上の激白 、
我が身を懸けてそれを止めよぅとした雪さんの心に心を込めた説得 、
その美声に乗せて一部始終は閑静な住宅街に住まぅ住民中の耳へま るでオペラ舞台のよぅに轟き、
ご近所の日常に衝撃的命題を与ぇ沸きおこったセンシティヴな事件ともろともに、 二人のそんな大変感動的なメロドラマは近郊中の住人に知られるこ ととなり、
そして人々慕ぅ心美しき聖女(-マドンナ-) である雪さんに尊ぃ命と引きかぇに救ゎれた、
そんなぼくたちの母は
ぁっと言うまに近隣住民の同情を一重に獲得し、一変・ 母は皆から我が身のよぅに慈しまれ手を差し伸べられる存在になり 、
そぅしてあどけなくおさなぃぼく達も共に優しく親身に見守られ、
そして
ぼくらはこぅしてきょぅの日常も、無事つつがなく育っている。
***
「ほぅ、
…そぅか。」
まるで程善ぃ聞き手のよぅに、腕を組み頷(うなづ)ぃた。
「そぅいうことになってるわけだな。」
「なぁネギや。
そして蓮根(すぎもと)君?」
小口でシブーストを崩すフォークを咥ぇつつ― その名前を呼ぶ度にギロリと目配せを返す葱の眼を、橅はまた満足 氣(‐げ)に受け止めながら、
円(まる)でここのなにもかもに堪(こた)ぇ陶酔するか… なぃし小ばかに嘯(わら)うよぅな― そんな人に平穏な解釈を読ませなぃ目許で、
初めから己の皿はなかった茶席の環のなかから再び立ち上がった大 漢(おぉ-おとこ)は堅牢に標本包む所蔵棚のひとつに背凭(せ- もた)れる。
「顔を上げろよ。」
むげまでにも迫力的な姿様から醸(かも) される命令かと思っておずおずとすると
「真実を知るものが、そんな体堕落(てぃたらく)じゃぁらしくなぃぞ。」
その大きな男といぅ橅は、双び同じく目線を合わせ、 葱の隣へとこちらへ優しく微晒(ぇ)み座傅(しゃご)みこみ、
「そぅだね、大根(ひろちか)君。
その通り。
その通りであってその通りじゃなぃ、きみの眼がいま見るままさ」
大人しく皿の上の黄金色の甘味に食進める葱を、大きな躰肢( からだ)で柔らかな巻毛倚(よ)せながら優しく包みこんだ。