*ぷみささんちの白紙帖

ぼくのこころのふりーだむ。

*ぴちゅ:めゝんと∴ぱらたいぽ

 https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/08/26/173509

*〔exspiravit ∃ureka papilionem

*****甘ぃ醸酵(はっこう)したランの果実の香(かお)りと甘橙色(オレンジ-)の光を夢々(ゆめゆめ)しく放つ紅茶のくゆらす虹色(にじいろ)に入射光(にゅうしゃこう)を反射する湯気(ゆげ)の
その視界(しかい)の向こぅ側には、ごっこ遊びの客人(きゃくじん)のよぅに はにかむ深海魚の樹脂標本(じゅしひょうほん)が並べられている。
膠質(こうしつ)の水晶に固められた頑巌(がんけん)な皮膚のなかでふゎり艷(なめ)らかに愛らしぃ曲線を讚(たた)えるその相貌(そうぼう)は、目の前に置かれた紅茶に、嬉(よろこ)んでまるで笑ってぃるようだ、あぁきゎめてらぶりー。
なんて、もぅ、ゆめのよぅだなー。
このシュルレアリスムな・この現在(いま∥イマ)のすべてをも含めて。

 

優(やわ)ゎく枯床(かれゆか)をひっ掻(か)く、綿虫(わたむし)の咳のよぅな音(ね)を一つたて
手前にひとつ置かれためらめらと灼(も)ぇる玻紋(はもん)の灯(あかり)を懐(いだ)く紅茶の器を、人一倍白ぃ光(ひといちばぃしろ-)を煌(きら)めかす―青年の手頸(てくび)が引き寄せた。

物言(ものい)わぬ命たちに包まれた空間に、生活の匂ぃ(せいかつ-にお)‐生命の薫る(せいめい-かお-)にわかな結界が生まれる。
その脇手(わきで)で瀟々(しゃく-)と、男が上機嫌(じょうきげん)に柔(やゎ)らかな長石色(ちょうせきいろ)の湯気(ゆげ)と己(おのれ)のその髪(かみ)に包まれ、巨(おぉ)きな背丈と手の中でなをさら玩具(おもちゃ)のよぅに見えるポットを傾(かたむ)けている。

 

さて、ぼくたちの状況を説明すると、この体躯(たいく)と髪質(かみしつ)のやかましぃ男に、皆一緒(みないっしょ)に仲良く現在(いま)この部屋に囚(とら)ぇられてぃる。

 

気の抜けるよぅな緊迫(きんぱく)に、おごそかなほどささやかな茶会(ちゃかい)の ぬくまゅぃ床板(ゆかいた)にちぢこめた手許(てもと)足許(あしもと)の蜜色(みついろ)の空気を微(かす)かに揺(ゆ)らす、始めの仄(ほの)かな-綿虫(わたむし)のあくびのよぅな-青年の一声(ひとこえ)ににわか先の
一件(さき-くだん)の記憶を想(おも)ぃ出し背筋(せすじ)が僅(わず)かに伸びる。
「ぶな」
ぶな、~木?
この屋敷をとり囲んでぃたあの大きな樹(き)…か茸(キノコ)…でもの名前だろぅか。
「ん?ネギ」その呼び声と共に、穣(ゆたか)に重(かさな)りざゎめぃた髪質(かみしつ)を湛(た)くわぇたぬぅぼぅとそそる体躯(たいく)の大男(おぉおとこ)が閑(しずか)に馴(な)れた仕種(しぐさ)で素早く茶器を置く。心のなかで、どぅとでもいぃことをなんとなく少し納得(なっとく)した。

 

 「ない」
不機嫌(ふきげん)そぅに四肢(しし)を投(な)げて坐(すゎ)りこむ青年がただ―此方(こちら)の硬直(こうちょく)とと相反(そうはん)し―ただよぅように空中(ソラ)に言葉の意志(いき)をぼやぃてなげる。
「ちゃんと見ぇない。ぶな。…眼鏡…眼鏡(めがね)………」「あぁさがそぅな、部屋がとっ散(ち)らかった拍子(ひょうし)に、どこかへいったか。」
大きな掌(てのひら)ですぐそばの部屋端(へやはし)から、まるですべてをみこしていたかよぅに
透通(すきとぉ)った眼鏡を一枚拾ぃ(いちまいひろ-)、優(やさ)しげには丁寧過(ていねいす)ぎる程にまだるっこくしっとり蟀谷(こめかみ)に指組(ゆびから)ませ
-大きな鏡子(レンズ)を掛けさせるぶな、と呼ばれる男(おとこ)に
彼奴(きゃつ)は空腹(はらペコ)の雛鳥(ひよこ)かといぅ位(くらぃ)無防備(むぼうび)に顎(あご)をひきあげた。

 

空間の中央で綿毛のぽとりとふきだまるよぅに鎮座(ちんざ)した 彼のほぅも其成(それなり)の男子としてはそこそこ背丈(せたけ)は大きな筈(はず)なのだが、ぶなとの身恰好(みかっこう)毅々(たけだけ)しい体躯の差(さ)に青年のほぅがよほど小(ちぃ)さく見ぇる。

 

華奢(きゃしゃ)にぶなの手ほどきから解(と)かれ、
眼鏡の-それは自身(じぶん)の為(ため)だけによる-鏡子(レンズ)からによる視界(しかい)を取り戻(と-もど)したところで、
ぢっと大人しく紅茶カップの淵(ふち)をなにをこんこんと眺(なが)める彼はこちら『人間(にんげん)』には
無関心(むかんしん)そぅに目をあわさなぃ。
ただならぬ無数(むすう)に並んだ牙(きば)を剥(む)き出(だ)し
その身姿封(みすがたふう)じた硝子質(がらすばこ)の中で恥(は)ずかしげにはにかむ
隣の深海魚(しんかいぎょ)のほぅがまだよっぽど愛想(あいそ)があるんじゃなぃか。
慎(つつ)ましく古美(こび)に飴色纏ぅ(あめいろまと-)結晶(けっしょぅ)の中で淡色(あわいろ)に煌(きら)めく
無垢(むく)な瞳(ひとみ)がまことにむきゅ―ん。ふゎ~。

 

「紹介(しょうかい)を済(す)ませた方が便利(べんり)だろぅ。おれは樫輪原 橅(かしわばら ぶな)。
あぁ。その
きっと思(おも)ぃ浮(う)かべてる木の名前(なまえ)のとぉりに木へんをかぃて、そのきがなぃ、と描ぃて橅だよ。」

 

熔(と)けるカーネリアンの熱波(ねっぱ)と淡靄(あわもや)の虹彩(こうさい)を渦巻かす(うずま-)紅茶が、手許(てもと)でカタンと一つ囁(な)った。

 

はっ。このにっちもさっちもならなぃ
彼等の雰囲気(ふんいき)に飲まれて、ぼくたちは
部屋の愛(いと)しぃ御標本達(ごひょぅほんたち)にいつ幾刻(いつゝ)までも見惚(みほ)れてる場合(ばぁぃ)じゃなぃんだ。いたたまれなぃが、この美しき部屋への投獄犯(とうごくはん)として
この状況からのなるだけ無事(ぶじ)な脱出なぃし逃亡への交渉への展開を起こすその氣真面目(きまじめ)な努力の為にも、なににつけみてくれこそ無難な会話の切っ掛(き-か)けを掴(つか)まなくては。

 

「あ、憶ぇてる。カシだかカシワだかいぅ…」
そぅだ。
「博士の親友の、樫輪原 樗(おうち)教授?
共著にも何度か名前の見えた…」
「共著ってもんじゃないよ。共同研究活動に協力しただけで、著したのは全部葎博士。
 研究活動や学会の主に外面(そとづら)とのパイプの顔役で、親父はまぁ、女房役だったって事だね。
 そんな愛しかるべき博士との研究の生活にしけこんでぃたお蔭で、本当の女房には外国に逃げられたけど」
この丁寧なよぅで不躾な大男は、いらんこと言ぃなのか、つくづく正直者過ぎるのか、またはすべてその間逆なのかどっちなんだろぅ。

 

真ん中だと世の中があまりに単純になってくれて、ぼくにとっては、これから付き合ぅ上で有難ぃことなんだけれど。

 

「やぁ、うちのネギに幾何(なに)かはなしかけたぃことがあるのなら、今のうちじゃなぃと喋らなくなるからな。」
煮(たぎ)る思謀ぃ(おも-)に晒した項(うなじ)に剥き身の玉詰(ラムネ)瓶を推し当(お-あ)てるがごとく-ひゃっと背骨に静電(せいでん)がうつ
―やはりこの”聖女”の影(かたち)の器を持った青年は浮世(うきよ)の幻(まぼろし)で、
本当はこぅして一刻瀬(ひととせ)の邂逅(でぁい)がいたずらにすめば
薇発条(ぜんまい)をなくした機械時計(マリオネット・ホーロジウム)のよぅにまた万年(ばんねん)の眠りにつくのじゃなぃだろぅな。
そんな可笑(おか)しな夢話的(メルヒェンチック)な戯言(おあそび)さぇ ―人の想像に呼起(よびぉ)こすよぅな―
「なる妥(た)け早く願(ねが)ぅね。くっふっくっふっく」
―そしてこの"非"現実へさかさにおちる・目前で夢物語から目を覚めさすよぅな…無粋に機能的な分厚ぃ眼鏡に睦(まなざし)を隠した白々(しろじろ)しぃ青年-の頑(かたく)なな仏頂面(ぶっちょうづら)から較(くら)べれば、
―いくばくか親密(しんみつ)になることができそぅな気をおこされそぅになる優男(やさぉ)しげな微笑(えがお)だが油断のならなぃ…
そんな小鼠の目論見(もくろみ)を見透かしたよぅに、屋敷守り(やしきもー)の何某(なにがし)か―ぶな、橅(ぶな)が不穏な風を吹かすが、いまはこれを追ぃ風にしていこぅ。

 

「あなたは…」
淹(い)れ経(た)ての紅茶の熱凍()ねつしみる陶磁(とうじ)の弁(ひら)に手と口もとを添(そ)え、
堅(かた)まった歯車の油脂(グリス)を「きみは、」いざとかさんとするがのごとく、そっと灼(あつ)ぃ息をのみつつ、「あの、」
ぼくは重(おも)たく舌禍(ぜっか)の鍵(じょぅ)をくだす。
「白河……さんの………雪(すすぎ)…」
「葱」
幽(かすか)かな低音で"葱"は答ぇた。
「ねぶか、だ。」

 

紫外線の足りなさそぅな髪の翳(かげ)に鑞(にぶ)ぃく翡翠(ヒスイ)にまどろむ眼光を、
大水槽(だいすいそぅ)の底(そこ)の如き凹鏡子(レンズ)の奥にたゆたゎし、神秘的な印証(いんしょう)すらもたらしていた彼が、
いまやすっかりおぼろげな不躾に礼儀を知らなぃ失敬な奴にしかみぇなぃ。


「ネギだ。
こぃつは白河 葱。
ネギって字をかく名前でな。だからおれはネギって呼ぶよ。雪さんは、こぃつの母親だ。」
己の仕事の片手間(かたてま)に、丁寧(ていねぃ)に注釈(ちゅうしゃく)を入れてとどこぉりなく橅が告(ことば)を次(つ)げた。

 

その働(はたら)きを待つように、葱(ねぶか)は僅(わず)かに揺れる紅茶器の幾何学(きかがく)に光蔭(こういん)が蠢(うごめ)く器(うつゎ)の中を、まるでこのみなものわずらわしぃものらから、肩身狭く自分の世界を避(さ)けるよぅに覗(のぞ)き込(こ)んでいる。


ふっ と、シャットした
布擦(ぬのず)れを垂直に起(おこ)して、橅が姿勢(しせい)を正しく起立した。
琥珀色(こはくいろ)の昏陽(ひぐれ)のなか気張(きば)ればとろりと脳漿(のうしょう)ごと微睡む(まどろー)催眠(さぃみん)のよぅな永遠(とわ)の居心地善さ(いごこちよー)を紡ぐ(つむー)―糸巻(いとま)きの針先(はりさき)の様(よ)ぅな規律(きり)ツとした所作(しぐさ)にやゃ身構ぇ(みがまー)るが、
それもまた杞憂(おもいすごし)か、この大男にとってはただの己の日常(つねにちじょう)を・不偏(ふへん)に廻(めぐ)らす毎事(まいごと)の精確(せいかく)な装置(そうち)となり営(つと)まんがするための普遍(ふつぅ)な仕業(こと)に過(す)ぎなぃみたぃだ。

 

「少こし席(せき)を外すけれど、それじゃぁそこのぼくの客人くん、すぐおれはもどってくるけれど、帰るまでにネギを頼むよ。」
はぃ…ぇ?なんでぼくが、いゃ逆に恃(たの)まれてるんだ?

 

「にげちゃぁ、駄目だぞ」
橅が広い背中を向けつつ冗談めかして云(ぃ)う。

 

「逃げられなぃ癖に」
お互ぃの返事も待たずに、それに衝剣呑(つっけんどん)なほど真面に還(まじめーかえ)す葱。

 

「それはおまぇだろ、
それじゃおりこぅさん、見張(みは)りをきちんとたのむよ、ネギ坊主。」

 

軟(やゎ)ゃかな布ずれの揺(ゆ)れる影(かげ)を径(へ)て夕蔭(ゆうかげ)にとぉざかりながら
橅の大丈(おぉき)な体躯(からだ)が俄(にわ)かに限窄(かぎりせま)ぃ空間に風間(かざま)を産み、
姿が棚(たな)の奥こぅに消ぇ去ると共に、
なぜか還(かえ‐)らぬ安堵(あんしん)と深(ふか)まる緊張(きんちょう)にしかと・その心手繰(こころたぐ)る柄の間も無く(つかーまーな)―
服の端切れ(はしき‐)を白(しろ)ぃ指先でしかっと掴(つか)まれた。