*ぷみささんちの白紙帖

ぼくのこころのふりーだむ。

*ぴちゅ:めゝんと∴ぱらたいぽ

https://pms0lsxm.hatenadiary.jp/entry/2019/08/26/151324

exspiravit ∃ureka papilionem

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地震の次は強風(あらし)だった。


青年(せいねん)は、何故か腕(うで)を引(ひ)っ込(こ)めた大ぶりなシャツの剰(ぁ)まった袖(そで)を風に翻(ひら)めく白魚のごとく伸(の)ばした
つまりでっかぃハタキのよぅにして! はっ 振りかぶった。
空気を叩(たた)き派手に音を立てた、その容赦(ようしゃ)なき一打(-だ)でなんとか顔に健気(けなげ)に掛(か)かっていた眼鏡が遂に浅熟(あさこな)れた床板に吹っ飛(ふ-と)ぶ。
淑(しと)やかな空間を鋭利(えぃり)に震ゎせ倭(やゎ)ぃ光の中―高ぃ部屋の
天井(てんじょう)と脳に響く反響(はんきょう)。「ッい…たいぃたい!すぇ…ずっぴょましぇ…!」もぅ条件反射(じょうけんはんしゃ)に近ぃ動物的(どうぶつ-)な瀕声(ひめぃ)を上(あ)げたぼくのしかいのなかで静徹に
「…ん… …」

そぅ彼は微(かす)かに呟ぃて、自分の白ぃ袖口(そで)から同じほど色(いろ)膚(はだ)透き通(かよ)ぅ掌(て)をぬるりと表(おもて)に出(だ)した。


不業(ふごぅ)の激震(げきしん)にうらぶれる密閉(みっぺい)された閉塞系(へいそくけい)で迷子になりそうな我(わ)が意識(いしき)を探す。
れいせぃにかんがぇるんだ。いまここでぼくらのいのちがすくわれるべく潔白(けっぱく)にまともじゃなぃかんがぇができるやつはぼくしかいなぃ。
…あぁ 
わが母の恩人(おんじん)に生写(いきう)つしたこの、目の前(まえ)に居る人は
ひとりの青年であり、つまりはどぅやらそれなりに成人(せいじん)した大(だぃ)の男(おとこ)だといぅ様だ。
そしてなんだか、ぼく達はこの長年憬れ(あこが-)に胸(むね)焦(こが)らせた、この夢(ゆめ)のような世界の主(あるじ)の
ようなものからとんでもなく拒絶(きょぜつ)されていた様子(よぅす)らしぃ。

社会的(しゃかいてき)に生命的(いのちてき)にだろぅが、なんの危機的状況(ききてき-じょうきょう)だろぅが、そこにちょっとでも凹っ(へ-こ)みすらすればもぅ心ごとここに倒(たお)れこみそぅだったが
ぽへはははほ…阿保(あほ)な囁(ささやき)きの吐息(といき)を背中に浴(あ)びさせながら、
蓮根(すぎもと)がやっと無駄に冷瀞(れいせい)にけろりとふっとんだ眼鏡をかけ直(なお)してくれた。
「もぅ、だまって笑ってなぃで助(たす)けてよ!」くだらなぃ、いつもどおりの憤り(いきどお-)に逆に精神を持(も)ちな押(-お)しつつ
ふぴゃっとこぃつの小憎(こにく)らしぃ顔に気(き)を取られている隙(すき)に、

大きな青年の体躯(からだ)が眼前(がんぜん)にまで迫(せま)っていた事(こと)を失念(しつねん)してしまった。
ひっ、と躊躇ろぐ(たじ-)すっかり萎縮(いしゅく)した心と、ぼかりと感情の暗闇(くらやみ)に開ぃた底深き(そこふか-)孤独感(こどくかん)と、
傍若(ぼうじゃく)なその年上(としうえ)の男(おとこ)の迫力と、容赦(ようしゃ)のなき眼付き(めつ-)の鋭(するど)さで
ぼくは睨(ニラ)まれているのかとばかり思ったが、 薄(―ススキ)の夏の草葉の刃(は)先(さき)のよぅな眼射(まなざ)しの
その青年の指(ゆび)がそっとこめかみに触(ふ)れて、ぼくは 初(はじ)めこの部屋に包(つつ)まれた印象の…ときの心地よき温(ぬる)む静謐(せいひつ)が甦(よみがえ)る。
ぼくは 穏(ぉだ)やかな螢光色(けいこういろ)の耀(ひかり)に漂(さら)された瞳(ひとみ)で、
 青年はこちらを―まるでかぼそい小鳥が玩具(おもちゃ)を嘴(つぃば)むよぅに執拗(しつよう)に精緻(ていねぃ)に、はっきりもの珍(めず)しそぅに ―眺(なが)めていられたのだった。
そして彼は言った、
「本当(ほんとぅ)に、ナマモノか。」

めくりめきむちゃにひきはがされた常況(じょうきょう)の捲管巻(まくりくだま)く展開(てんかぃ)に己(おのれ)の身(み)の上(うぇ)をぅまく噛(か)まずに呑(の)み込(こ)めなぃ。
「ふ あ、ぁの、潜り込(もぐ-こ)っ………忍び(しの-)込(こ)んじゃって、ごめんなさい。
 出来たら、 食べずに、 ぼくらを助(たす)けてくださぃ。」
常識的な人間が自己の贖罪(しょくざい)そして保身(ほしん)の為にまず行(おこな)ぅのは心を込めた丁寧な謝罪(ていねい-しゃざい)である。

そしていくら、そぅしても。大人になって、世界(せかい)ではそれで どぅにもおろされなぃことも あると知るのは、ぼくらにとっては先の話になる。


「そぃつは無茶(むちゃ)な相談(そうだん)だ。みんな纏(まと)めて、あたまのいかれた看守(かんしゅ)の巡回(じゅんかい)までここを出(で)られなぃんだからな」
「いとしの王子(おうじ)の出迎(でむか)えって言(い)ってくんなぃ?」

 

大男が音もなく―いゃ、僕等が大騒ぎしてる最中(さいちゅう)に入り込んでいたのだろぅ、気楽に扉(とびら)に靠(もた)れ、傑(ゆ)っくりと立っていた。
気怠げ(けだる-)に満悦(まんえつ)した顔を埋(うず)めるよぅな巻(ま)き毛を肩に垂らした長身(ちょうしん)がどぅもバタ臭(くさ)ぃ、
洋館の空気感と醸酵(はっこう)し濃密(のうみつ)に練(ね)り上げられた底知(そこし)れぬ雰囲気を持つ、同性(どうせぃ)にとって相容(あいぃれ)れ難(がた)ぃ退廃(たいはい)の薫(かお)る大人の男性だ。
唯一(ゆいいつ)の脱出口(だっしゅつこう)を塞(ふさ)くその翳(かげ)の登場に、―つまり少年であるぼくはシンプルにめちゃめちゃびびった。

                  ―ユーレイヤシキノ モリノバケモノ
 …*『あぁ、しまったぞ大根、幽霊屋敷の守りの化けものに見付(ミツ)かった!』

この現実は確実な融解-幽界(ゆうかい)-ユウカイ-をはじめる。

焦(こ)がれた世界の琥珀に綴(と)じられて、

「あぁ、こんな日がいつか来(き)てしまうんだっておもっていた」

大男の一般的(いっぱんてきな)な日本人にある交(ま)じき外連(けれん)な仕草(しぐさ)はぼくの常識的(じょうしきてき)な価値観(かちかん)から信頼(しんらい)を剥離(はくり)させた。

 

夢窓の住人達が僕等人間達の素形(スガタ)を静謐に眺(なが)めてぃる。

 

 


窓の向こぅ、この白亜の館より木樹(きぎ)をこえてわたり
すこしだけ世界を遠く隔てた門の向こぅ側、そこには今も現代迄通り(いままでどぉ-)
続(つづく)く恙無ぃ(つつがな-)日常が凪(な)がれていると言(ぃ)ぅのに。ぼくは、僕(ボク)等(ら)はもぅ。どぅしてか。


 好奇心は生と死の竟(はざま)、どちらでもなぃものの箱を開ける。
やれやれ系主人公なんて、そんじょそこらの苦労を背負って
なるもんじゃなぃよ。

 

おもぇば、これが、永(なが)いよぅで短ぃ僕達の関係性(かんけいせい)の、
どぅともなく、騒々(そうぞう-)しぃよぅで静(しず)かな、
奇妙(きみょぅ)なよぅで当然(とぅぜん)な、その最期(さいご)へつづく一番始まり(いちばんはじ-)の
閃明(まあ)たらしく懐かしぃ、本当の最初の出逢(であ)ぃである。


   「こうなってしまったからには、君達には共犯者(きょうはんしゃ)になってもらおう。」

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